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技術記事 2026/7/28

自前GPUで推論を回すなら EC2 G7 をいつ選ぶか — GPUメモリ32GB・可用リージョン・コストで「マネージドに寄せる/自前で握る」を分ける

GAしたEC2 G7(Blackwell世代GPU)を、新世代の自慢ではなく自前GPUサービングのインスタンス選定肢として捉える。GPUメモリ32GB×GPU数のラダー、可用リージョン(東京なし)、稼働率コストの3軸で、自前で握るかマネージドに寄せるかを判断する型を整理します。

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EC2 G7のGA(一般提供開始)は、見出しだけ追うと「速いGPUが出た」という性能の話に見えます。ただ、EC2上で自前のGPUサービング(モデルを自分のインスタンスで配信すること)を検討している人にとっては、注目すべきは速さそのものではありません。「いつG7を選び、いつマネージドに寄せるか」という選定の判断軸が更新された点です。本記事は、G7をGPUメモリ・可用リージョン・稼働率コストの3つの軸で読み解き、自前で握るかマネージド(Bedrock・SageMaker)に寄せるかを判断できるようにすることを目的とします。対象は推論ホスティングの選定で、学習用途やチューニングの設計は扱いません。

何が変わったか — Blackwell世代GPUと、性能比の読み方

G7は、NVIDIA RTX PRO 4500 Blackwell世代のGPUを1インスタンスあたり最大8基搭載します。GPUメモリは1基あたり32GBで、最大構成では合計256GBになります。CPUはcustom Intel Xeon 6、ネットワークは最大700Gbps EFA(Elastic Fabric Adapter=GPU間や分散処理で使う高帯域ネットワーク)です。

性能は前世代のG6と比べてAI推論で最大4.6倍、グラフィックスで最大2.1倍とされています。ここは読み方に注意が必要です。これらは公式の「up to(最大)」表現で、比較したモデルや精度、バッチサイズといった前提は公開されていません。つまり倍率は固定の見積もり値ではなく、ワークロードによって変わる参考値です。選定では、この倍率を当てにせず、後述するGPUメモリと稼働率で判断します。

サイズ別の公式スペックは次のとおりです。同じ32GB/GPUでも、サイズによってGPUの数と帯域が変わります。

サイズvCPUシステムメモリGPU数GPUメモリ合計ネットワークEBS帯域
g7.2xlarge832 GiB132 GB最大60 Gbps最大8 Gbps
g7.4xlarge1664 GiB132 GB最大100 Gbps8 Gbps
g7.8xlarge32128 GiB132 GB最大100 Gbps16 Gbps
g7.12xlarge48192 GiB264 GB175 Gbps20 Gbps
g7.24xlarge96384 GiB4128 GB350 Gbps40 Gbps
g7.48xlarge192768 GiB8256 GB700 Gbps80 Gbps
g7.metal192768 GiB8256 GB700 Gbps80 Gbps

最小はg7.2xlargeで、その下のサイズはありません。g7.metalは提供予定(Coming soon)です。最新の構成・提供状況は公式のインスタンスタイプページでご確認ください。

自前GPU選定の第一の軸 — GPUメモリ予算で逆算する

自前でモデルを配信するとき、最初にぶつかる制約はGPUメモリです。GPU上には少なくとも次の3つが同時に載ります。

  • モデルの重み:パラメータ本体。量子化(数値の精度を落としてサイズを縮める手法)でも大きく変わります。
  • KVキャッシュ:生成中の文脈を保持する領域で、入力・出力が長いほど、同時実行が多いほど膨らみます。
  • 同時実行バッチの作業領域:同時に何リクエストを処理するかで増減します。

この3つの合計が、1基あたり32GBに収まるかどうかが出発点です。ここで「何Bのモデルが載る」と固有の数値で断定するのは避けます。収容できる規模は量子化やランタイム、文脈長、同時実行で変わるためです。代わりに、必要量を見積もってから器を選ぶ「メモリ予算で逆算する型」で考えます。

逆算の分岐は、32GBという1基の枠に対して2方向に分かれます。

GPUメモリ予算の逆算を示す図。中央に1基32GBの枠があり、モデルの重み・KVキャッシュ・同時実行バッチの3要素を積み上げる。32GBに収まる場合は単一GPU(g7.2xlarge〜8xlarge)、超える場合は複数GPUに分散(g7.12xlargeで2基64GB、g7.48xlargeで8基256GB)へ分岐する。固有のモデルサイズは示さず枠の概念で表現
図1: GPUメモリ予算の逆算。重み+KVキャッシュ+同時実行を見積もり、32GBに収めるか複数GPUに分散するかを決める

必要量が32GBに収まるなら、単一GPUのg7.2xlarge〜8xlargeが候補です。この範囲はGPU数が1で同じ32GBのため、選定軸はvCPUやネットワーク帯域など周辺リソースになります。収まらないなら、複数GPUに分散します。g7.12xlargeで2基64GB、g7.24xlargeで4基128GB、g7.48xlargeで8基256GBと、GPU数とともにメモリの器が広がります。分散時はGPU間の通信が効いてくるため、帯域も選定軸に入ります。前掲の表のとおり、700Gbps EFAはg7.48xlargeなど最大サイズに限られ、小さいサイズほど帯域は下がります。大きなモデルを複数GPUに分けて回すほど、この帯域差が効いてきます。

第二の軸 — 可用リージョン(東京は現時点で未提供)

選定で見落としやすいのが、提供リージョンです。G7は現時点でus-east-2(米国東部・オハイオ)とus-west-2(米国西部・オレゴン)の2リージョンのみで提供されています。東京を含む他リージョンの記載はありません。

これは設計上の明確な制約になります。データの所在地、エンドユーザーまでのレイテンシ(応答にかかる時間)、国内の規制対応といった日本リージョン要件を持つワークロードでは、G7を自前サービングの選択肢から外さざるを得ません。リージョンの拡大は今後あり得ますが、現時点では公式のアナウンスを待つ段階で、提供時期を前提に設計するのは避けます。日本要件があるなら、東京で利用できるマネージド(Bedrock・SageMaker)へ寄せるのが現実的な判断になります。最新の提供リージョンは公式の表で確認しましょう。

第三の軸 — コストは稼働率で決まる

G7の購入オプションはOn-Demand、Savings Plans、Spotがあり、単価そのものは下げる余地があります。ただし、自前GPUの経済性を最終的に決めるのは単価ではなく稼働率です。GPUは確保している間ずっと課金され、リクエストが来ていないidle(待機)のGPUはそのまま純損になります。

つまりコストは「稼働率 × 単価」の構造で捉える必要があります。トラフィックに波があり稼働率が読めないワークロードでは、専有のGPUを抱えるより、トークンやリクエスト単位の従量で払えるマネージドのほうが見合うことがあります。逆に、常時高いスループットで稼働率を高く保てるなら、自前の専有が効いてきます。なお具体的な時間単価はリージョンやサイズ、購入オプションで変わり、変動もするため本文では金額を示しません。最新の単価は公式のEC2料金ページでご確認ください。マネージド側の単価をどう下げるかという観点は Bedrock推論のコスト最適化 が、自前で抱えたGPUの稼働率やスループットを監視指標(SLI)に落とす設計は 推論エンドポイントのSLO設計 が参考になります。

自前で握るか、マネージドに寄せるか — 3つの軸を束ねる

ここまでの3軸を束ねると、判断はひとつの分岐に収れんします。

自前GPUサービングとマネージドの判断フロー図。3つの問いを順に通す。①モデル規模と稼働率が読めるか、②モデルやランタイムの制御が要るか、③東京リージョンが不要か。3つすべてYesなら自前のEC2 G7、ひとつでもNoならマネージド(Bedrock・SageMaker)へ寄せる
図2: 規模が読める・制御が要る・東京不要の3つが揃えば自前(EC2 G7)、ひとつでも欠ければマネージドへ

判断の問いは3つです。第一に、モデルの規模と稼働率が読めるか。読めれば自前の器とコストを設計できますが、波が大きいとidleの純損が膨らみます。第二に、モデルやランタイムの制御が要るか。Bedrockに無いモデルや独自の最適化が必要なら自前に寄ります。第三に、東京リージョンが不要か。日本要件があれば、現時点でG7は選べません。

この3つがすべて揃うなら、自前のEC2 G7が候補になります。ひとつでも欠けるなら、マネージドへ寄せるほうが無理がありません。これは新しい判断ではなく、実行基盤を自作するかマネージドに任せるかという 実行基盤の build と managed の判断を、推論サービングに当てはめたものです。注意したいのは、自前を選んだ場合に運用責任(キャパシティ管理・スケーリング・可観測性)をすべて自分で負う点です。G7が速いことは、この分岐の答えを「常に自前」に変えるわけではありません。

まとめ — 自分のワークロードに当てはめる

EC2 G7の選定は、次の3点を自分のワークロードに当てて棚卸しすることから始まります。

  • GPUメモリ予算:重み+KVキャッシュ+同時実行を見積もり、32GBに収めるか複数GPUに分散するかを決める。
  • 可用リージョン:東京要件があるかを確認する。あれば現時点でG7は外れ、マネージドが現実解になる。
  • 稼働率:トラフィックの波を見て、専有が見合うか従量が見合うかを判断する。

この3軸で「自前で握る/マネージドに寄せる」の当たりをつけられれば、G7のGAという出来事を、性能の話ではなく自分の設計判断に変換できます。どの軸で自前を選び、どこを監視し、どこで運用責任を引き受けるかを自分で説明できることが、この領域での専門性そのものになります。

AI・LLM推論の基盤設計は、AWSの専門領域のなかでも高単価帯にあたる分野です。こうしたGPU選定や自前サービングの運用設計を担えるスキルを案件で活かしたい場合は、AWSの高単価(専門特化)案件を見る・相談することができます。

出典

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